幸や不幸はもういい
(ネタばれあり)

遅ればせながら、ようやく読みたかった『自虐の詩』(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%99%90%E3%81%AE%E8%A9%A9)を読みました。
知ってる人は知ってる、泣ける4コマとして名作の誉れ高い作品です。
不幸を身にまとったような女性幸江と、その内縁の夫、無職でどうしようもないイサオとの日常を描いた4コマです。

上下の二巻からなってるのですが、上巻は、普通のギャグ4コマです。
ですが、下巻の中盤以降から、幸江の過去の回想が多くなり、話がドラマチックに展開していきます。
上巻から下巻途中までの何気ない日常が、そこでにわかに密度をおびて読者に迫ってきます。
ラストに向ける感動は、それまでの布石があってこそです。
幸江の不幸に見える日常に、なぜ彼女がそこまで前向きに幸せだと思えるのかという疑問が、幸江の過去を知るにいたり、突如説得性を持つのです。
そこにはイサオという一人の愛する男性の存在がいます。端からみて、ただの堕落者にしか映らないイサオも幸江にはかけがえのない愛する人です。
そしてイサオも不器用ながら幸江を愛していることが伝わってきます。
幸江は、これまで愛されてこなかった。愛を求めていた。
そんな彼女が、愛する人を見つけ、懸命に愛す、そして愛される、それは、どんな過酷な毎日、理不尽なことが起ころうと、幸せなことなのだと思います。
個人に還元して考えるなら、幸せは相対的なものではなく絶対的なものだ、というのが僕の常日頃思っていることですが、まさに幸江はその姿勢を具現したものであるといえます。

いや、幸江はもっと達観してるのかもしれません。
物語は学生時代、唯一心を通わせることができた、たくましく、そして美しい心の持ち主、熊本さんとの20年ぶりの再開で幕を閉じます。

「幸や不幸はもういい。どちらにも等しく価値がある。人生には明らかに意味がある」

これは誰の言葉でしょう。幸江でしょうか、作者でしょうか。
人生は幸や不幸で図れるほど、軽薄なものではない。

僕達は、人生をあまりにも不遜に扱いすぎているのかもしれませんね。

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