映画 『ミリキタニの猫』
ドキュメンタリー作家のリンダは、ニューヨーク、ソーホーの路上で絵を描いている日系人ホームレスの老人ミリキタニに出会い、彼に興味を持つ。9.11の日もいつも通り、絵を描いていた。リンダは彼を自宅に招き、今まで知らなかった彼の過去を知る。米国籍を持ちながら、戦争中は強制収容所に入れられ、市民権も失くした事。そこで離れ離れになったままの姉がいる事。癒えない傷と怒り、そして平和への願いが彼に絵を描かせていた。

路上で絵を描き続ける老人。
ミリキタニは一人、寒い冬も暑い夏も、絵を描き続ける。
若い頃に芸術に生きると誓った。
しかしその道は戦争によって、戦争で受けた理不尽によって奪われてしまった。
彼は過去に生きている。
過去のために自分の生き方を変えない。
自分のことを絵のマエストロと呼ぶ。
生き方を変えないことこそが、自分の国から存在を否定されたことに対する存在証明の反抗なのだ。
彼を支えているのは、アメリカに対する怒りと、戦争への悲しさと、平和への希求である。

ドキュメンタリー作家のリンダが、偶然この老人と出会ったことからこのドキュメンタリーはできあがった。
リンダは、自分の家にミリキタニを招き入れた。
老人との共同生活が始まる。
そして、リンダを通じて、彼は生き別れた姉や、親族、知り合いとの再会を果たしていく。そして、老人の心も徐々に変化し、心の壁が溶解していく。

拒んでいたアメリカからの社会保障を受入れ、老人養護施設で生活を始める。
人との偶然の出会いから、縁が生まれ新たな世界が花開いていく。
姉と会ったとき、彼が老人ホームで絵の教室を開くとき、ポーカーフェイスの彼の表情の奥に限りない喜びを見いだした。
強がりの口調の奥にある、慰安と暖かさを感じた。
老人のそれまでの寂しさと、ずっと戦ってきた孤独な辛さ、多少強情な癇癪持ちなところが、クリスマスイブで僕が会った老人と重なった。

暖かい人に囲まれているミリキタニを見たとき、僕は自然に涙を流している自分に気が付いた。
ぬぐってもぬぐっても、その涙はあふれ出してきた。
僕はその涙が嗚咽に変わるのを必死に我慢しながら見続けた。

彼は絵を描き続ける。平和のために。傷ついた人々のために。
そして自分の為に。

老人は本当に誰もが認める絵のマエストロとなった。
人々の縁の素晴らしさ。心の素晴らしさ。
人生の不思議さを感じずにはいられない作品だった。

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