映画 『長江哀歌』
監督:ジャ・ジャンクー
【舞台は三峡ダム建設の進む四川省・奉節。主人公は2人の男女。1人は、16年前に家出して実家に戻ってしまった妻と娘に会いに来た山西省の炭鉱夫・サンミン(ハン・サンミン)。もう1人は、2年前に出稼ぎに行ったまま消息を絶った夫を探しに来た看護婦のシェンホン(チャオ・タオ)。2人のストーリーは別個に進行し、それぞれの結末を迎える…。第63回ヴェネチア映画祭で金獅子賞受賞。】


ジャ・ジャンクー監督が、『水没の前に』を見たことが、この映画を作ろうと思った発端かどうかは知らないが、作品に『水没〜』に出てきた住民が役者として出ていた(と思う)ので、驚いた。
『水没の前に』と同じ、奉節の町を舞台にした、二人の人間のドラマである。
僕はこの監督の作品を以前に一度見たことがある。
中国のヌーヴェルヴァーグと評された『青の稲妻』なんだけど、中国のゴダールという形容をつけたくなる難解さで、僕は付いていけず好きになれなかった。
しかし本作は、しっかりとしたストーリーラインがあり、『青の稲妻』を撮った監督の作品だとは思えない。

最初僕は、二人の主人公がどこかで出合う話かと思っていたけど、二人は最後まで出合うことはない。
同じ場所で、同じ時に進行する二人の人生にスポットを当てている。
奉節の背景については『水没〜』のレビューに書いたので、ここでは割愛する。

映画の中に時折、意図の掴めない場面。
たとえば、UFOが表れたり、突然、ビルが、ロケットのように打ち上げられたり。
ネットで調べてみると、監督がしっかりそのことについて発言していた。UFOは、このまま水没していくこの町がなんだか寂しくて、異星人でも現れないかと思った、とか、ビルは周りの景観とそぐわなかったからだとか。
一見稚拙にも感じるこの監督のシンプルな思いこそ、失われゆく奉節という町に対する監督の哀歌(エレジー)なのだとも思える。

場面に出てくる四つの言葉。
烟(タバコ)、酒、茶、糖(アメ)。
これは昔から中国人に欠かせない「とても素朴な形で普通の人々に喜びと幸福をもたらす」ものだと監督は言う。
中国の急激な変化の中でも、出会い、別れ、喜び、悲しみなどの人間の営みは変わることはない。ジャンクーは、大きなドラマもない、普通の人間の人生をあえて選び、切り取って映画にする。
普通の人間の人生こそ、もっとも素朴な形で人々に感動を、幸福をもたらすものだと。映画の中で、烟(タバコ)、酒、茶、糖(アメ)の四つに分かれたパートは、ふとした時に、それら四つの嗜好品のように欠かせないものとして、見直すことの出来る「普通の人生の一片」であって欲しいという監督の願いなのではないだろうか。

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