ISBN:4003243374 文庫 トーマス・マン 岩波書店 1988/10 ¥903
理性を尊び自由と進歩を唱導するセテムブリーニ。テロと独裁によって神の国を実現させようとする非合理主義者ナフタ。2人に代表される思想の流れはカストルプの魂を奪おうと相争うが、ある日雪山で死に直面したカストルプは、生と死の対立を超えた愛とヒューマニズムの道を認識する。人間存在のあり方を追求した一大教養小説。
三週間のつもりで、従兄弟を見舞ったハンス・カストルプはそのサナトリウムで実に7年間も滞在することになり、その期間に彼は様々な人物と接することになるのですが、なかでも、セテムブリーニとナフタは思想的に両極であり、その対立の真ん中でカストルプは模索します。対立する二人は、カストルプを教化せんがため、また自己の思想の正当性を肯んじさせるために互いに「陣取り」を行います。それは当時の世界情勢、また対立する傾向の象徴ともいえよに思えます。そして、中で煩悶するカストルプはまさに大衆の象徴であるように感じました。物語の後半、その対立に一人の人物が放り込まれます。それはそういった思想とはかけ離れていて縁遠いが、確実に人々を引きつけてやまない精神のスケールを持ったぺーペルコンなる人物です。カストルプは彼に惹かれていきますが、彼はある日自殺します。思想を持たない立場というものも、やはりいつか身を滅ばさざるを得ない運命にあるということがこれにより示されているとは解説者の弁ですが、僕自身その解釈に納得させられた部分があります。最終的には、理性のセテムブリーニと非合理主義のナフタは決闘し、セテムブリーニは銃を空に放ち、ナフタは自分の頭を打ち抜きます。セテムブリーニを生き残らせたところに、マンの理性に対する信頼があるようにも思えました。カストルプはこれらの経験そして、彼らの思想、様々な人物の精神を吸収することにより、そこを突き抜けた人間のあり方を大悟するのですが、その表現は、非常に曖昧であり難解です。
陣取りは何も生まないが、思想を持たないものもいつか滅びる。それらを超えた部分とはいったいどういうことなのでしょう。ラスト近く、カストルプは食堂で、二流席で食事をとっています。
しかし彼も、戦争というきっかけで、世間と隔された時間のない世界から、あの継続性の世界へと舞い戻ります。自国民のために命を賭すために。僕はそのとき、うまく説明できないけれども、「ああ、そうか」と合点がいきました。ナショナリズムと、グローバリズム、民族主義とヒューマニズムはけして対立するものではないはずだと。

コメント

nao
2006年5月7日23:19

こんばんはー。
トーマス・マンは「ベニスに死す」を本と映画と両方観ましたが、あまり価値がよくわからなかったのです(^^:。もう一度読むとまた違うかもしれませんね。「魔の山」は読んでいないのですが、結構スケールの大きそうな小説ですね。
今、「悪霊」が面白くて、どんどん読めてしまいます。とにかくドスト作品は全部読んでみたい思いにかられてますよ(^^)。

キタム
キタム
2006年5月8日17:58

こんばんわ^^
岩波書店のトーマスマンの本は、総じて訳がわかりずらいように感じます。僕も実は、「ベニスに死す」映画みまして、僕は映画は気に入っているのですが、小説の方は、短いにもかかわらず、最初の5ページくらいで挫折して、棚に眠っています(笑)僕にとってはそれくらいわかりにくい訳でして^^;「魔の山」も、非常にわかりずらいです。結構読むのつらかったです〜^^;ドイツ語っ訳しづらいのかな?
僕も実は、「悪霊」再読し始めました!
なんだかとっても読みやすく感じます(笑)
結構忘れていたので、またたのしく読めています^^♪

nao
2006年5月11日0:09

こんばんは!
「悪霊」ようやく上巻の半分ほどですが、今まで読んだドストの作品の中では一番人名などにも混乱せずにわかりやすく読みやすいです。
たいてい、ドストの作品って、「あれ?この人ってどこで出て来た人物だっけ??」ともう一度戻って読み直さないと、誰だかわかんない..ってことが多いのですが・・・
「ベニスに死す」のタジオ少年は印象的でしたね。そういえば、ヴィスコンティはドストの「白夜」を映画化しているのですよ。内容は本の方が深い感じがしますが、映画の方の舞台装置とかロマンティックで大変美しい映画でした。

キタム
キタム
2006年5月11日19:00

それにしても、ロシアって、人名の呼称がいろいろありすぎて、同一人物なのに混乱しちゃいますよね^^;
本名と敬称と親しいもの同士の呼び方など、色々で、慣れるのに苦労しますよね〜。
僕は悪霊100ページくらいです。なかなか読める暇がありません〜><!
「ベニスに死す」の少年はタジオっていいましたっけ(小説読んでいないので^^;)、映画では、最初女の子と見間違えました。映画は、ほんとに美しかったですね〜!ビスコンティのあの退廃的な美しさが結構好きなんです^^

キタム
キタム
2006年5月11日19:53

あっ、ビスコンティの「白夜」の映画の方だったんですね〜^^;僕は実は、ドストの小説、「白夜」は未読なんです〜。確か、僕の大学生の時にはドストの白夜は文庫でなかったか、探し当てられなかったみたいです。
ビスコンティの「白夜」、ビスコンティならではの美しさ、何となく想像できます〜。こちらも未見ですが、ドストの小説を読んでから、是非見てみたいです^^!

nao
2006年5月13日0:26

「白夜」はドストエフスキーってこんなにロマントックなのかー!と思う作品です。それでもやはり映画よりドストの原作の方が深いかんじがするのですよ。実はブレッソンも「白夜」を映画化しているのです。こちらもどんなのか見てみたい。なにせ、ブレッソンにロマンチックは到底思い浮かべられないイメージ(^^;;。でも、なかなかレンタルでもないので見れそうにないです。が..(笑)

nao
2006年5月13日0:27

>ロマントック
ロマンチックの間違いですー。何度もすみません。。

キタム
キタム
2006年5月13日8:22

確かに、ドストエフスキーは、どちらかというとロマンチックという感じではないですね〜^^;
白夜も読まなければ〜!
ブレッソンは「スリ」の一作しかみていませんが、この作品も、ドストの「罪と罰」を下地にしているんですよ〜。
結構ドストエフスキーの小説が影響を与えている映画って多いですね。黒澤明はいうまでもないですが、たとえば、ヴィスコンティ。僕は後で知ったのですが、「若者のすべて」は「白痴」、「地獄に堕ちた勇者ども」は「悪霊」を下地にしているそうです。言われてみると、ああ、そっか〜って感じです。ブレッソンは〜、CS放送に期待ですね^^;!

nao
2006年5月14日0:26

おおー、いいことを聞きました!そうなんだー。「スリ」は見たことないのですが「ラルジャン」はみたのですよ。これもドストの「罪と罰」とよく比較されるとか..。「スリ」もいつかみてみようと思います!

>「若者のすべて」は「白痴」、「地獄に堕ちた勇者ども」は「悪霊」を下地にしているそうです。

うわー。そうなんですかー。これも絶対みたいです。ドスト関係の映画はやはり興味津々ですねー。ありがとうございます(^^)

nao
2006年5月14日0:33

あ、「ラルジャン」の原作はトルストイの「にせ利札」というのだそうです。これも時間があったらいつか読んでみようかな。。と思います。

キタム
キタム
2006年5月14日3:25

こうやって映画の原作や元となった作品を当たっていくと、トルストイやドストエフスキーって多いですね。あらためて、19世紀頃のロシア文学って偉大だったんだなあと思います。まだまだ、読んだりみたりしたいものは多すぎて、つきることはないですね〜^^うれしい悩みって感じですね☆

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