映画 『全身小説家』
2006年3月17日 映画〔邦画〕
DVD ジェネオン エンタテインメント 2000/11/24 ¥5,985
そしてその事実を捉えることができたのは、5年間もの間一人の人間を追いつづけた監督の執念です。ドキュメントです。究極のドキュメントだと思います。
作家・井上光晴がガンで死去するまでの5年間を追ったドキュメンタリー。彼の文学活動の実践の場である伝習所の生徒達との交流、埴谷らによる証言、井上へのインタビューを、彼の闘病生活と共に捉えていく。そして、彼の死によって終るかに見える映画は、さらに彼の故郷での取材を通して、作品の基盤となっている原体験や履歴が虚構であり、虚構を生きることが作家のアイデンティティだったことを明らかにする。手法的にはイメージ編=再現ドラマを交えるという試みがなされている。一人の人間を追っていくと、様様な出来事が起り、様様な事実が浮かび上がります。一人の人間を長い期間追いつづける、見つづける。その間に起る圧倒的な事実の前には、どんなドラマもかないはしないことを、この作品は示しているように思えます。井上光春は、撮影期間中に、ガンが発見され、死に至りました。そして、その後、彼の語った人生が虚構であったことが知れるのです。小説は物語を紡ぎ出すもの。彼は、自分の人生すらも小説にしてしまいました。だからこそ全身小説家というタイトルがつけられたのでしょう。もし、彼の虚構が暴かれなかったら、このようなタイトルはつけられていなかったかもしれません。これこそが、事実の力だと思います。
そしてその事実を捉えることができたのは、5年間もの間一人の人間を追いつづけた監督の執念です。ドキュメントです。究極のドキュメントだと思います。
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