ISBN:4101361274 文庫 辻 仁成 新潮社 2000/02 ¥380
廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。
序盤から中盤にかけては、正直ぎこちない。だけど、後半にかかってくる辺りから、この小説は、ダイヤモンドの輝きを放ってくる。完璧な作品だとは思わない。言葉づかいも、どこか無理をしている感があり、そのころの作者の文体のスタイルではないと思う。しかし、不完全であるとこに、辻氏の、作家としての飛躍を試みるその志を強く感じる。こういった闇の部分は、経験をしていないとなかなか書けるものではないだろうと思う。僕が読んだ辻作品のなかでは、確実に、一番、人間の深部まで踏みこんで描いている。小説版中島みゆきとでもいうか。しかし、そういった部分に踏み込むことこそ、僕は小説の一つの役割だと思うし、また、小説の可能性だと思う。
辻仁成のメッセージがもっとも色濃くあらわれた小説であり、おそらく彼はこの部分を伝えたいがために小説を書いているのではないかとか、勝手ながら思っているのである。

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