ISBN:4582852297 新書 岡田 尊司 平凡社 2004/06 ¥756
短絡的な殺人など、不可解な事件がなぜ起こるのか。アルコール依存や拒食症はなぜ止まらないのか。児童虐待、家庭内暴力がなぜ多くなっているのか。欲望をコントロールできない人がなぜ増えているのか…。これらは「人格障害」という病理から発しているのだ。現代人の誰もが感じ、直面している不安に、治療の最前線に立つ精神科医が答えを示す。
連載で書いた人格障害についての定義は、この本を参考にした。
著者は、小説家としても活躍しているそうで、どうりで、他のこういった系統の本に比べて、読みやすく且つしっかりとしていた。
自分の性格や、障害に苦しみを見出している人には、一読することをお勧めしたい本だ。
読んだ中で、いくつか、興味深かった部分を自分なりにまとめて、紹介させてもらってもいいかしらん。

・自我が未発達であると、「妄想・分裂ポジション」という幼い子どもに見られる特徴が出現する。これは、一人の人間にたいして、全く別人のような態度をとる。相手を、自分にとって都合がいいか悪いかの一部分だけで、判断し、良い悪いを含めた全体としての相手という観点を持たない。こうした一部分だけで対象と繋がる関係を「部分対象関係」と呼び、人格障害の特徴でもある、1か10か、全か無か、という二分法的な思考ともつながっている。
自我が強化され、自分の都合の悪い部分も受け入れられるようになるという、よい対象への同一化が進むと、より統合された「全体対象関係」へと移行する。

・障害へ立ち向かう者に援助しようと思うものがとるべき態度は、相手の都合や要求に対して、ある枠組みを超えることには、はっきりと「ノー」と言える、そうしたびくともしない一貫性である。「ノー」の領域、枠組みを持たずに、ただ、要求を次々と受け入れている状態では、人格障害の人は、どんどん不安定になっていくことが多い。明確な枠組み、頑丈でしっかりとした存在が、人格障害の人を落ち着かせ、信頼関係を築き上げていく。

・援助者は、受容と枠組みの中で、障害者が自分の内面や過去を紐解き、自分の問題に向かい合い、ごまかしや責任転化によってではなく、より適応的な生き方を手伝うことになる。
その作業は、最初は、根気強く、同じことの繰り返しであっても、何度も話し、輪郭をなぞっていく。そうした中で、障害者は徐々にその堂堂巡りから脱してくる。だんだんと、過去の自分の過去が断片的に明らかになっていき、断片的であったものが、繋がっていき、ついには、過去と現在が繋がり、自分のこれまでの人生を俯瞰できるようになっていく。自分の人生を外から見る客観性を身につけるわけである。
すると、現在抱える諸所の問題と、自分の過去の人生体験が、密接に絡みあったものであることに気づいていく。たとえば、親が原因だとわかった場合、そこで始めて親への反撥、憎しみといったものが芽生えてくる(これがいわば反抗期で多くの人が経験する自我の発露)。たとえば依存性障害者は始めて自分の意思で親の頼みごとを拒んだりする。だから、この反発という経緯は自我を形成する重要な要素である。

・人格障害を克服する最後の段階は、最終段階は、親を求めたり、誰かのせいにする気持ちから脱し、諦めと悟りの中で、自分自身で責任を引き受けることである。過去との和解。本来の自分との再会。

「十代の間に、こうした問題に向かい合う人もいれば、五十を過ぎてから、ようやく自分に向かい合える人もいる。それは早いとか遅いとかの問題ではない。人それぞれの人生があり、人それぞれの時期があるのだと思う。その人が変われるかどうかは、その人自身が自分に向かい合えるかどうかなのである。」

・・・最後にあげた括弧の言葉に、痛く感銘した僕であった。

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