読書 『月と六ペンス』
2005年6月16日 読書〔小説・詩〕
ISBN:4102130055 文庫 William Somerset Maugham 新潮社 1959/09 ¥580
平凡な中年の株屋ストリックランドは、妻子を捨ててパリへ出、芸術的創造欲のために友人の愛妻を奪ったあげく、女を自殺させ、タヒチに逃れる。ここで彼は土地の女と同棲し、宿病と戦いながら人間の魂を根底からゆすぶる壮麗な大壁画を完成したのち、火を放つ。ゴーギャンの伝記に暗示を得て、芸術にとりつかれた天才の苦悩を描き、人間の通俗性の奥にある不可解性を追求した力作。芸術は爆発だ。じゃなくて、芸術は衝動であり、本能だ、とでもいいたげなこの作品。ゴーギャンがモデルと知り、彼の絵画を眺めたりもしてみた。審美的、ではなく、美も醜も芸術であり、芸術は全ての道理を超克する、とストリックランドが考えていたのかどうかはわからないが、最終的に文明から隔絶されたタヒチに向かったのは、限りなく理性を取っ払ったところに芸術は存在し、それを実行するためには人間同士の繋がりの上に成り立った道徳、理性、哲学、文化、文明みたいなものは全て足かせでしかなかったということなんじゃなかろうか。でもタヒチにたどり着くまでに、多くの人を犠牲にしつづけたのは、彼も、その人間の不可解性に到達するまでに若干の文明に対する未練や躊躇があったからであって、そこからなかなか踏み切れなかったからなのではないかと僕は思う。
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