井上康生は、実は、非常に繊細な神経の持ち主だ。
常にまわりの人たちのことを考え、謙虚で、柔道以外のところでも人間として模範であろうとする人物だ。朴訥で、清廉。真面目すぎるのである。
過去の彼のインタビューや、ドキュメントを見て、僕は彼に対して、そういった印象をもっている。そして、それが彼をひきつける魅力であり、僕がたまらなく彼を好きなところである。
だが、彼のその真面目さ、他人に対するやさしさは、勝負の場面では彼の弱点でもある。
同じ天才でも、井上と野村は違うタイプだ。
野村には、絶対的なゆるぎない自信を内に秘めている。
野村の神経は図太い。野村は、去年の世界選手権で3位に終わったときも、自分が一番強いということを譲らなかった。持てばいつでも投げられる、という確信は負けても崩れない。彼は、練習もマイペースだ。「普通の人が10やることを、天才は5か6やるくらいでいい」ともいっていた。
今回の3連覇はその豪胆さの賜物といってもいい。
一方井上は、どこかに常に不安を忍ばせている。
自分に対する自信を彼は一時期失って、一本負けを連続で受ける期間があった。風貌に似合わぬ大粒の涙で嗚咽する彼の姿は、今でも僕の脳裏にこびりついている。
彼は這い上がってきた。勝ちつづけることで再び自信を取り戻した。しかし、その背後には、自分の自信を支えるだけの人よりも何倍も何十倍もの猛烈な練習があった。彼は、誰よりも練習をすることで、不安を払拭してきたのだ。
今回は、日本の主将として、そして2連覇をかけたオリンピック。彼は、今までにも増して、練習に打ち込むことで、プレッシャーを打ち消そうとした。ひざの怪我など、不安な要素を練習に打ち込むことで忘れた。ある日父親が見たとき、井上は点滴を打ってなお練習していた。
一回戦から、何か不吉な予感がした。
明らかに、いつもの井上の動きではなかった。精彩を欠いていた。
いつもの絶対的な安定感。安心感は感じなかった。
悪い予感は的中した。井上は、焦ったあまり、ミュンヘンの世界選手権の一回戦内股でやぶったバンデギーストに見事な一本負けを喫した。
ショックだった。僕は井上が大好きだ。誰よりも応援していたからこそ、残念だった。
井上のショックは僕の非ではないはないだろう。彼のやさしさ、真面目さを思うと、心が痛くなった。彼はきっと、自分より、支えて、応援してくれたまわりの人々のことを思って自分を責め、苦しんでいるだろうと。
ニュースには、井上はオーバーワーク症候群の可能性が高いとかかれていた。オーバーワークとは、疲労が、蓄積して、疲れが抜けきれていない状態。
井上が不安を、プレッシャーを打ち消すためにした練習が、逆に彼の体を蝕み、彼本来の実力をそいでしまった。彼の真面目さが、裏目に出てしまったのだ。
だが、僕はそんな彼が好きだ。ひたむきな、あまりにも真面目すぎる彼が好きだ。やさしさ、もろさ、そして、あの体で、虫が嫌いというおかしくも繊細な彼の性格を、愛さずにいられないのだ。
彼はまた、必ず這い上がってくる。
常にまわりの人たちのことを考え、謙虚で、柔道以外のところでも人間として模範であろうとする人物だ。朴訥で、清廉。真面目すぎるのである。
過去の彼のインタビューや、ドキュメントを見て、僕は彼に対して、そういった印象をもっている。そして、それが彼をひきつける魅力であり、僕がたまらなく彼を好きなところである。
だが、彼のその真面目さ、他人に対するやさしさは、勝負の場面では彼の弱点でもある。
同じ天才でも、井上と野村は違うタイプだ。
野村には、絶対的なゆるぎない自信を内に秘めている。
野村の神経は図太い。野村は、去年の世界選手権で3位に終わったときも、自分が一番強いということを譲らなかった。持てばいつでも投げられる、という確信は負けても崩れない。彼は、練習もマイペースだ。「普通の人が10やることを、天才は5か6やるくらいでいい」ともいっていた。
今回の3連覇はその豪胆さの賜物といってもいい。
一方井上は、どこかに常に不安を忍ばせている。
自分に対する自信を彼は一時期失って、一本負けを連続で受ける期間があった。風貌に似合わぬ大粒の涙で嗚咽する彼の姿は、今でも僕の脳裏にこびりついている。
彼は這い上がってきた。勝ちつづけることで再び自信を取り戻した。しかし、その背後には、自分の自信を支えるだけの人よりも何倍も何十倍もの猛烈な練習があった。彼は、誰よりも練習をすることで、不安を払拭してきたのだ。
今回は、日本の主将として、そして2連覇をかけたオリンピック。彼は、今までにも増して、練習に打ち込むことで、プレッシャーを打ち消そうとした。ひざの怪我など、不安な要素を練習に打ち込むことで忘れた。ある日父親が見たとき、井上は点滴を打ってなお練習していた。
一回戦から、何か不吉な予感がした。
明らかに、いつもの井上の動きではなかった。精彩を欠いていた。
いつもの絶対的な安定感。安心感は感じなかった。
悪い予感は的中した。井上は、焦ったあまり、ミュンヘンの世界選手権の一回戦内股でやぶったバンデギーストに見事な一本負けを喫した。
ショックだった。僕は井上が大好きだ。誰よりも応援していたからこそ、残念だった。
井上のショックは僕の非ではないはないだろう。彼のやさしさ、真面目さを思うと、心が痛くなった。彼はきっと、自分より、支えて、応援してくれたまわりの人々のことを思って自分を責め、苦しんでいるだろうと。
ニュースには、井上はオーバーワーク症候群の可能性が高いとかかれていた。オーバーワークとは、疲労が、蓄積して、疲れが抜けきれていない状態。
井上が不安を、プレッシャーを打ち消すためにした練習が、逆に彼の体を蝕み、彼本来の実力をそいでしまった。彼の真面目さが、裏目に出てしまったのだ。
だが、僕はそんな彼が好きだ。ひたむきな、あまりにも真面目すぎる彼が好きだ。やさしさ、もろさ、そして、あの体で、虫が嫌いというおかしくも繊細な彼の性格を、愛さずにいられないのだ。
彼はまた、必ず這い上がってくる。
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