DVD 東宝 2003/03/21 ¥6,300
無気力な日々を過ごしてきた公務員の渡辺(志村喬)は、ガンで後半年の命と知らされ、恐れおののき、嘆き悲しんだ末、市役所に懇願する人々の願にこたえて公園を作ろうと努力していく…。♪命短し〜恋せよ乙女〜♪黒澤のパーソナルな面での傑作。そして「七人の侍」とならびしばしば黒澤の代表作に上げられる。黒澤のヒューマニズムをこれでもかと注ぎ込んだ作品だもの、そのパワーは圧倒的だわよ。自分の命のはかなさを実感したとき男は生きる意味を問い詰め、他人を生かすということにこそ人間的な生きがいの本質を見る。享楽的に生きるのもよいだろう。しかしそれは自己完結の人生だ。人のために何かをやるからこそ、そこに他者との感情の共有があり、死後も他者の記憶の中にとどまるであろう自分に対する面影こそ、自分の生の痕跡であり、また、その痕跡こそ、生きる意味なのではないか。他者との感情を共有するとは、自分にとっては本来関係のない部分、そして、共有したくないような他者の苦しみをも、自分のこととして受け持つことなのである。
黒澤明監督が、人間の尊厳を高らかにうたい上げたヒューマン・ドラマの傑作。そこにはどんな者であれ、人はここまで高められるのだという希望と同時に、ルーティンワークに甘んじる体制社会、およびそこに安住する人々への痛烈な批判も込められている。黒澤映画のいぶし銀、志村喬の代表作。自由奔放にふるまう部下のとよ(小田切みき)との交流の数々もせつなく印象的だ。後半、いきなり主人公の葬式シーンへと飛躍し、周囲の者が彼について回想し始めていくという構成も、実に大胆かつ秀逸。最期に主人公が公園で歌う流行歌『ゴンドラの歌』は、本作の功績によって今ではスタンダードな名曲として讃えられている。
コメント