DVD ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2004/04/02 ¥2,090
この『イン・ザ・ベッドルーム』のように、心に響く、美しい映像作品が発表されると、映画が表現し得る感性、啓示性の限界がまたしても押上げられたような気がする。今回が初監督作品となるトッド・フィールドは、脚本家ロブ・フェスティンガーとともに、アンドレ・デュバスの原作をもとに21歳の息子を殺された両親の深い喪失感、怒り、冷徹なまでの復しゅう心を静かに描いてみせた。映画は、フランク(ニック・スタール)が大学の夏休みを利用して里帰りするところから始まる。フランクは、ナタリー(マリサ・トメイ)という、暴力夫と別居して2人の子供を育てている魅力的な年上の女性と付き合っていた。フランクとナタリーの関係がみんなの中にある偏見を露呈することになったとは言え、フランクと両親の間に通い合うあたたかく優しい愛情の描写は、映画でその後起こってくるどうしようもない憤怒に強い説得力を与えている。ロブスターだけでもっているメイン州の小さな町で中流の暮らしをしていたマットとルース・ファウラー(トム・ウィルキンソンとシシー・スペイセク)は、フランクが殺された後しばらくの間やるせなさと相手を責める気持ちにさいなまれ続けたが、最後には押さえ切れない怒りがすべてを超越してしまう。フィールドが丁寧に描いた嫉妬、階級意識、深い悲しみといった感情の描写は、ウィルキンソンとスペイセクのこれまでで最高と言っても良い名演技でさらに深みを増している。ユー・キャン・カウント・オン・ミーと同様にこの『イン・ザ・ベッドルーム』も新世紀を彩る最高のアメリカン・ドラマのひとつと言えるだろう。
予想していたのとぜんぜん違った。よい意味で。そして、恐ろしかった。人間の冷静な復讐心。リアリティーを感じた。動というよりも静の映画だ。しかし、人間は傍目落ち着いて見えるほうが怖いときもある。悲しみと、恐ろしさと、やるせなさと。父親は時を待っていたのだった。ベッドで交わす夫婦の会話。そして最後もまた妻の待つベッドへ帰るのである。我々の日常でもまたこれと例外ないことがおきても不思議はないのかもしれない。まさしく、本当の悲しみを知ったものはこの様であるのではないか。
完成度の高い作品だと思う。

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