読書 『ゴルギアス』
2004年6月18日 読書〔小説・詩〕
ISBN:4003360125 文庫 加来 彰俊 岩波書店 1967/01 ¥693
ソクラテスと3人の人物との対話は、弁論術が立身栄達の術とされている現実や若い人の実利主義的道徳意識などを次々と明るみに出す。プラトン(前427‐347)は本篇によって、個人の道徳と同時に政治の問題を追求し、アテナイの現実の政治に痛烈な批判を投げかけた。後に『国家』において発展させられた哲人政治の思想の第一歩である。人は何よりもまず、善い人と思われるのではなく、実際に善い人であるように心がけなければならない。善い人とは正しくなければならない。正しくあるためには、そのものの真理を心得ていなければならない。真理を知らずして相手に真理を知っているように思わせる説得を上達させる弁論術は「迎合」でしかない。迎合である限りは、正しくなく、それは善ではない。自分の信念に反したことをして、栄華を極めたような人物は、信念を貫き、極貧のうちに生きたものよりも哀れである。しかし、飽食の徒が自らの体を蝕んでいることに気づかないがごとく、その栄華を極めたものも、自らの魂を不健康な状態にしていることに気づいていないのだ。ソクラテスは、このように物事の真理を考察していくことで、なぜ、不正を行うものになるよりは、不正を受けるものになるほうを自分が選ぶかを、そしてそれこそが正しいことであることを明快に解き明かしていく。民衆の前で演説をする場合、迎合に陥ることは必然である。ならば現在の政治家は皆、真の政治家ではない。迎合に陥らぬためには、一人一人と語り合い真理へ導いていくという耐えまざる努力をするしかなく、それをなしえるものこそが真の政治家であり、国を治めるべきだと。プラトンの哲人思想がどういう考えから出てきたのかを知っておくのに役に立つ。ただし、この理屈が真理となるためには、肉体と精神が等価である、もしくは精神のほうに重きをおく価値観を前提としなければならないが。
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