映画 『愛を乞う人』
2004年5月27日 映画〔邦画〕
VHS 東宝ビデオ 2000/06/21 ¥6,300
娯楽映画を撮ることに関しては共に定評のある監督平山秀幸と、脚本鄭義信とがタッグを組んだ強力作。今や特別に珍しい問題でもなくなってしまった「娘を愛せない母親」と「それでも母の愛を求める娘」の壮絶な関係の物語である。何より1人2役の難事に挑んだ原田美枝子の熱演が圧倒的で、実際、数々の賞に輝くなど高い評価を受けた。父の骨を探していくシーンは、ドキュメントタッチで、映画の流れに馴染んでいないような感じを受けたが、全体的にみるとやはり完成度の高い作品だろう。なにより、脚本が素晴らしい。床屋での母親との邂逅から、帰途のバスの中で自分の娘を交わした会話に至る過程の緊迫感とその弛緩がいいようのない感動を与えてくれる。娘の発してくれた一言。たった一言が、これほどの重みを持って心に迫ってくるとは。言葉の力というものを実感せずにはいられない。
観ごたえ十分の内容で、ほかにも思わず引き込まれるシーンは多い。例えば、長じてからも「作り笑いする癖がある」以外にトラウマが何もないように見える娘の静けさは、ヒステリックな母の虐待よりはるかに不気味で恐ろしい。劇中あえて曖昧にされている彼女の家が母子家庭だった理由には、かえって興味がそそられる。緊張と解放とが激しく交錯するクライマックスは邦画の歴史に残るだろう。
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